院議員選挙を控え、主要6政党の若者政策を進める国会議員にインタビューするシリーズ。話を聞いたのは立憲民主党、衆議院議員の中谷一馬(なかたに・かずま)さん(38歳)です。中谷さんは、インターネット投票の法案作りに力を入れ、超党派での議論をリードしてきました。ほかにも被選挙権年齢や供託金の引き下げ、育休制度の充実などを掲げています。若者政策をどう実現しようと考えているのか、YouTubeたかまつななチャンネルで聞きました。
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インターネット投票の法案づくりをリード
――中谷さんは、若者政策の中でも特にインターネット投票の実現に向けてすごく取り組んでいたと聞きました。どうして問題意識を持たれたんですか?
学生時代から「何でインターネットで投票できないんだろう」と疑問に思っていたんですね。例えばインターネットバンキングとか、お金の出し入れですらデジタルでできる時代なのに、なぜか行政は非常にデジタル化が遅れている。特に投票は憲法で参政権も保障されているにもかかわらずです。
エストニアでは15年前からすでにインターネット投票が実装されていて、世界にはロールモデルがたくさんあります。そういう意味では、日本でも絶対にできると思いますし、今の投票制度に不自由を感じている人たちに向けて、ソリューションを提供できたらと思っています。
――具体的に国会ではどのようなことをされたんですか。
ネット投票をどうしたら実現できるか、若手を中心に超党派で議論を行いました。その後、党内の政治改革部会で私が責任者として議論を始めました。最終的には、国会で立憲民主党と国民民主党でインターネット投票を推進する法案を提出しました。ここまで3年かかりました。
――そんなに時間がかかるんですか。
技術的な面や制度的な改革について公式の場で30回ぐらい議論をしました。ゲームのルールが変わることに恐れを持っている方や、技術的な面で不正投票が行われる懸念を持っている方もいらっしゃいます。一つ一つの課題感に対して丁寧過ぎるくらい丁寧に説明をして、それを改善するプロセスを経て、今国会でなんとか提出できました。4年後の実現を目指しています。
なぜ国会で審議拒否するのか
――続いて若者政策についてお聞きしたいです。立憲民主党が他の政党と比べてここが違うぞというところを教えてください。
丁寧に若者の声を吸い上げる。僕たちの意見をお伝えする。要するにコミュニケーションをちゃんと図ることを徹底してやっています。たかまつさんもゲストで来ていただいたことがある「おしゃべり会議」というコミュニケーションの機会を年に2、3回、定期的に作るようにしています。
政治家と若者で目線がずれると政策決定もずれていくことが往々にしてあるので、学生や若者の悩みと政治家の考えていることを双方で知る機会を設けています。こうしたことを通じて、コロナで困窮している学生に向けた法律案を作って提出しました。
――若者政策をやっている人たちからは、野党がもう少し国会改革をリードしてほしいという意見も出ています。今、私は与野党両方が審議拒否をしていると思うんです。例えば、野党は、ほとんどの法案に賛成してはいますが、一部審議拒否をしますよね。逆に野党が提出した法案についても与党側が審議拒否できるとも考えられます。審議拒否ではなく、国会で議論をしてよりよい政策、法案を出していくことが大事だと思いますが、どうお考えですか?
野党は反対ばかりして対案を全く出していないと思われがちですが、2017年に立憲民主党ができて4年が経ち、これまでに政府提出法案の82%に賛成をしています。法案は165本提出してきました。野党が法案を提出すれば与党サイドが審議をするべきですが、165本のうち審議されたのはわずか約2%です。98%はスルーされてしまっています。
でも、与党側は非常にけんかの仕方が上手で、その法案の審議はしないけれど、選挙での争点を消すために、部分的に法案の内容をつまむんですね。例えば、雇用調整助成金とか持続化給付金とか、コロナ対策のものは野党がはじめに法案を提案して、その1ヶ月後か2ヶ月後に少しグレードダウンしたような焼き直しの法案が出てきて、それが通過するというのがありがちです。
でもこういったものは国民の皆さんに知らせることができていない現実があります。僕はもっとクリーンでフェアでオープンな国会にしていくべきだと思います。
――そうですね。だとするとやはり審議拒否しないほうがいいのではないでしょうか。審議拒否したことがニュースになって「野党はまた反対ばかりしているのか」と思われてしまうような。
僕自身はたかまつさんに考え方が近いという前提でお話します。昭和型の戦い方の人たちがどういう発想でやってきたか、解説を踏まえながらお伝えしますね。
反対すると、与野党が対決しているのでメディアが集まりやすいんです。賛成している法案はメディアではほとんど取り上げられませんが、対立しているものなら注目してみようとなるから。
今までは、たぶんそれが戦略上重要だとされてきたから続けてきたと思うんですよね。でも、今の時代は批判すること、反対することに美学や哲学を感じづらい時代だと思うので、どうしたら着目してもらえるかを考えていかなければならないと思っています。
エビデンスを重視した議論を
――これまで主要6政党の議員さんに伺ってきましたが、若者政策においては正直そんなに大きく変わりませんでした。マニフェストを見比べてもだいたい向いている方向は似ているなと。でも、マニフェストの端っこから真ん中に持っていくのが難しいという議員さんがいるなど、優先順位がなかなか上がらない。将来の世代や若者世代に意識が向いていないということは事実としてあると思います。それを変えていくにはどうしたらいいと思いますか?
僕は多様な方が議論に入ってきて、予算の配分やルールの決定がされたほうがいいと思うので、若者にどんどん政治の世界に入ってきてほしいと思っています。そのためにはハードルを下げる。供託金を引き下げる。一般的に年齢を重ねれば経済力も強くなるので、若者にとっては不利になることが多いからです。被選挙権年齢も25歳ということにロジックが全然ないわけですね。
――本当にそうですね。選挙に行けるのは18歳なのに立候補できるのは25歳。「え?」ってなりますよね。
それに対して、そんな未熟者がやってもしょうがいないみたいな根拠のないロジックがあるわけですよ。世界の6割以上の国は、被選挙権年齢が21歳以下です。もっと言えば、僕は18歳でもいいと思っているぐらいです。なぜなら悩みが違うから。当事者に来てもらって意見を言ってもらうのはとても重要な機会です。
あと、本来は、EvidenceBasedPolicyMakingで、エビデンスやファクトに基づいて政策決定や意思決定がなされるべきなんですけど、今はこの政策をやると決めたから、後付けで根拠を持って来いみたいな話がとても多い。それだとパワーバランスで何もかもがブラックボックスのまま決まってしまう。国民にとって最適解なのか分からない意思決定がされてしまう。
そうではなくて、エビデンスやデータをしっかり収集する癖と、それに対して100%正解か分からないけど、少なくともこのデータ上は正解である確率が高いから、それに対して進めていこうという意思決定ができたほうが、政党にとっても組織にとっても国にとっても絶対有益だと思うので、政界においてその当たり前を醸成させていきたいと思います。
――今後、若者政策でやっていきたいことはどういうことですか。
被選挙権年齢の引き下げ、供託金の引き下げ、育休の推進。パパクオーター制という、男性にも必ず育休を取ってもらう仕組みを入れたり、休業中の補償を6~7割ではなくて100%にする仕組みだったり、こういったことを推進していきたいと思っています。
あとは教育費。僕も苦しくて借金して進学しましたが、学費の問題で進学できない状態はやめて、給付型の奨学金がちゃんとあって、学費が健全な価格で進学できるような仕組みにしたい。子どもは自分の努力だけでは乗り越えられない壁が必ずある。それを大人がちゃんと社会の中で支える仕組みを整えていきたいなと。
シチズンシップを学んだ人が損しない仕組みを
――ぜひ進めていただきたいです。どうしたら若者が投票に行くと思いますか。
自分たちが考えて行動する力が、ちゃんと評価される尺度をつくっていくことだと思います。例えばいま、香港のように人権が脅かされてしまっている、アフガニスタンやミャンマーのように自分の生命と財産が大きく脅かされている。こういう環境の投票率なら当然上がりやすいんです。
一方で北欧諸国のように、シチズンシップ(市民としての資質を育成する教育)がちゃんと進んでいる国も、投票率が高くなっていると思うんですね。日本でも一部、政治参加をするための教育が神奈川県の全県立高校に導入されたんですけど、その勉強をした人が受験で使えない。結果として、学んだことに対する意味を見出しづらい仕組みになってると。こういうものを抜本的に変えていかなければならないなと思っています。
――最後にお伺いしたいんですけれども、若い人は、立憲民主党に入れるべきでしょうか。
入れてほしいと思います。歴史上、権力というのは必ず腐敗するんですね。自民党が正しい、立憲民主党が正しい、これが100%だというものではなくて、常に水を流し続ける環境をつくることが極めて重要だと思っています。与野党で拮抗したバランスを取っていくことが多様な価値観を議会に反映していくことにつながると思うので、強過ぎる今の政権与党に対して、野党を若者に育ててもらえれば、結果として自分たちの未来に返ってくると思います。
若者施策を引っ張る人材を国会へ――取材を終えて
立憲民主党への評価は、事前取材では、かなり低かった。中谷さんがいう若者と交流する「おしゃべり会議」も、「政策実現の場ではなく、単なる交流会の域からでていないのではないか」という指摘があり、回数の少なさを指摘する声もあった。交流は大事だが、そこから現実するものにやはりしてほしい。 また、後期高齢者の医療費の窓口負担増に反対するなど、高齢者寄りの主張が目立ち、若者の味方をしないという声もあった。私もそのように思う。 立憲民主党が掲げるジェンダー政策や多様性などは、ますます進めて欲しいし、党の内部にも目を向け、役員や立候補者にもっと若者や女性を増やしてくれることを願う。 中谷さんのような若者イシューを頑張り、党の幹部を説得しようとする議員がいることは心強い。一方で、中谷さん自身、今回の選挙では当選自体が厳しいとの見方もある。立憲民主党の若者政策を知る企画ではあるが、若者政策に力を入れる議員を有権者が応援する、その政党を変えようとする人を国会におくるという視点も大事なことだと思った。
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