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  • 執筆者の写真笑下村塾

スウェーデンの若者だけの政党「ユース党」の実態とは?

※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年07月10日配信)


 若者の投票率が8割を超えるスウェーデン。過去には18歳の国会議員が誕生し、20代や30代で閣僚になることも珍しくない。なぜこの国では、若者の政治参加が活発なのか。その答えのひとつが、各政党とは別の独立した組織であり、若者しか入れない「ユース党」の存在だ。時には、自分たちの母体政党の政策に異議を唱えるキャンペーンを展開する。このユース党が、若者の声を政治に反映する重要チャンネルになっており、また政治活動の訓練をするキャリアとしても大切な場になっている。昨年9月のスウェーデン総選挙期間に、社会民主労働党、穏健党、中央党、環境党のユース党を現地取材した。

 (注)2022年9月の総選挙で、第1党の社会民主労働党、中央党、環境党らによる中道左派連合が敗れて下野し、穏健党を中心とする中道右派政権が成立した。


親政党からの独立性が高い「若い組織」

 ユース党とは何か。社会民主労働党には、「社会民主労働党ユース党」という、13~35歳までしか入れない「若者だけの政党」がある。参加可能要件は政党によって異なるが、他の政党にもある組織だ。社会民主労働党ユース党の党員数は1万8千人。会員の95%が15〜25歳であり、スウェーデンの若者のおよそ1%が所属していることになる。首相経験者や党首もユース党出身者から多く輩出されている。

 日本の政党にもユース党に近い組織はあるが、広報や選挙での「大人の手伝い」というイメージが強い。スウェーデンのユース党はこれとは異なり、自分たちで会員を集め、独自に政策提言をする。社会民主労働党のユース党には支部があり、とりまとめた意見を母体となる政党に伝える。党本部の政策委員会に、ユース党の代表者の席があり、そこで政策の議論に参加している。穏健党では、各政策委員会に必ず、ユース党のメンバーが加わるようになっている。また穏健党は、ユース党に所属する市長や副市長がたくさんいて、国会にも20代後半の議員がいるので、地方から国政まで若者の声が反映されやすくなっているという。


学校訪問で党員集め

 党員を集める主な方法は学校訪問。特に、選挙期間中は、学校選挙と呼ばれる模擬投票が行われるため狙い目だ。私が首都ストックホルム近くのリディンゲにある高校を訪れると、講堂に全政党がブースを出展し、ユース党のメンバーが自分たちの政党のPRに努めていた。中には中学生が説明している姿も。そこで、パンフレットを見たり、気になることを質問したりした生徒たちが、そのまま隣の部屋に行き、模擬選挙で投票するという形が取られていた。

 勧誘で学校を訪問する際には、校内のカフェテリアで、「この政策についてどう思うか?」「この問題について賛成か反対か」と対話して、興味がある人に入党を勧めているそうだ。若い人が関心のある問題について話すことが多い。例えば、学校に関する問題や、若い人の失業率が高いので雇用、精神的な病気を持つ人も多いので、若者のメンタルヘルス、増加する凶悪な犯罪に対して、どのように厳罰化するかといった質問をされることが多いという。

 ストックホルム大学でも、キャンパス内にユース党が、ブースを作り学生にアピールしていた。

 最近は、選挙期間中以外は学校訪問が厳しくなっており、各党のユース党同士で連携し情報共有しながら、党員の新規勧誘を行っている。SNSを使い問い合わせを増やす戦略をとるケースもある。

 ユース党は独立した機関なので、そのお金の使い道も、若者たちが決める。党首や役員には報酬が出ることもあり、本業にしている人もいる。党首はユース党員による選挙で選ばれる。予算の多くは国や地方からの税金だという。


大麻、性犯罪―大人たちにもの申す存在

 ユース党の大事な役割は若者の声を政策として実現させることだ。親政党の政策委員会や党大会で、席を持つだけではなく、自分たちの問題意識をキャンペーンとして大々的に訴えることもある。

 例えば、若者の間では、大麻が大きな議論になっている。中央党のユース党は大麻を合法化するべきだと考えているが、母体は反対しているため、説得を続けている。若い議員への投票を呼びかけ、議席を増やすことで、大麻解禁に向けた議論を進めてもらおうと運動している。穏健党でも、大麻について親政党が反対しているため、合法化するように働きかけているという。

 社会民主労働党のユース党が提案したことにより、若者は夏休みの間、公共交通機関を無料で利用することを勝ち取ったという。党大会で提案し、社会民主労働党が中心の連立政権がこの改革を実施した。最近では、学生補助金の見直しもユース党の提案で実現した。直近の選挙では、「選挙に勝った場合、中央党と連立する」という話にユース党は反対し、戦略的に選挙前に発信し、メディアに取り上げられた。

 フェミニズムに力を入れているため女性の党員が多いという環境党のユース党は、2年に一度開かれる親政党の党大会の前に何を議題にすべきかなど戦略を練る。数年前には、ユース党の提案により、レイプや性暴力をめぐる新しい法律を推し進め、レイプ犯をもっと厳しく罰せられるようにしたという。

 (後編に続く)

 ☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。

 ※取材に出てくる名前・年齢・肩書は、取材当時2022年9月時点のものです。



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