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  • 執筆者の写真笑下村塾

ジャニーズ問題から考える 性被害をどうしたら減らせるか?

※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年05月15日配信)


「初めて性行為を受けたのは2012年3月、中学を卒業する直前だったと記憶しています」。4月12日、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんが東京都内で記者会見し、大手芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」創業者で前社長のジャニー喜多川氏(2019年死去)から性被害を受けていたと語った。大変に衝撃的な内容だった。

 喜多川氏の性加害疑惑は、英BBC放送が3月にドキュメンタリー番組を放送。同番組にはカウアンさんとは別の元ジャニーズJr.の男性3人が登場した。

 一方で日本のテレビ報道は、この件について追及が及び腰だ。そのことを問題に思い、私は5月5日、カウアンさんをYouTubeたかまつななチャンネルのゲストに招き、生放送の特別番組を組んだ。

 ※※ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長は昨夜(5月14日)、「何よりも被害を訴えられている方々に対して深くおわび申し上げます」と謝罪する動画と文書を発表した。


声を上げやすくしたい

 私のYouTube番組に出演してくれたカウアンさんは、これまで元ジャニーズだというと、喜多川氏と性行為をしたことがあるかとよく聞かれたという。「ない」と答えるようにしていたが、自分にうそをつき続けるのがつらかったから、告白することに至ったと語った。

 またジャニーズ事務所の藤島社長と面会したことも明らかにした。「真摯(しんし)に受け止めてもらった」「今後のジャニーズが何かしら発表するのではないか」という話だった。カウアンさんは「一番嫌なことは誰かが命を絶ち、自分で自分を責めてしまわないかということ。僕ができることは変わらない。(性被害の)声を上げやすくする」ことだと話した。

 一方、これまでの記者会見などで、今ジャニーズにいるタレントさんが全員被害にあったように見えてしまう言い方をしていたのは良くなかったと後悔もしていた。ただこのたかまつななチャンネルでの発言に対しては、ジャニーズ事務所からお金をもらったのではないかというコメントや、チャンネルへの出演自体がジャニーズ事務所に頼まれてやったものだという事実無根のカウアンさんの名誉を傷つけるコメントまで付いた。

 カウアンさんの元には、これまでに誹謗(ひぼう)中傷のコメントも多く集まっている。今回の配信でも、被害者が声を上げることの難しさを感じた。被害者が声を上げやすい社会にすることが大切だ。

 ※※カウアンさんが出演したたかまつななチャンネル特別番組(録画)は以下のアドレスで視聴できる。(https://www.youtube.com/live/FJNS57reMHs?feature=share)


半世紀前から問題視

 ジャニー喜多川氏の性加害疑惑については、半世紀ほど前から指摘されていた。1960年代に週刊誌が一部報道し、その後も元ジャニーズ事務所のメンバーが著書で告発した。1999年10月から、『週刊文春』が14週にわたって報道。するとジャニーズ事務所が、週刊文春を発行する文藝春秋を相手に、名誉毀損(きそん)で計1億700万円の損害賠償を求めて提訴した。裁判では、東京高裁が喜多川氏の性加害(セクハラ行為)を認定。ジャニーズ側が最高裁に上告したが、2004年2月に棄却され、高裁判決が確定した。


なぜテレビ局は取り上げないのか

 このように半世紀ほど前から問題視されていたが、なぜテレビでは報道されないのか。私は主に三つの原因があると考える。

 第一に、忖度(そんたく)があると思う。多くのテレビ局は、ジャニーズ事務所との取引があり、「ジャニーズタレントを出さない」と言われると困るので、忖度がテレビ局側に働いてしまう。ましてや、情報番組や報道番組のキャスターなどにも、ジャニーズタレントが進出しており、問題に触れにくくなってしまっている。

 第二に、スポンサーへの影響を懸念していることが考えられる。ジャニーズ事務所のタレントは多くの会社のCMに起用されている。そこで、半世紀ほど前からうわさされていた児童虐待、性加害について黙認や放置がされてきたことを、スポンサーとしても指摘されたくない。だから、報道することで、スポンサーを刺激したくないのではないか。

 第三に、テレビ局としての責任を追及されたくないからであろう。テレビ局は、性加害疑惑が長く指摘されてきたにもかかわらず、ジャニーズ事務所のタレントを起用しつづけてきた。この問題をなぜ報じなかったのか、自分たちにも責任があると言われるのは困る。そうした考え方が、この問題を取り上げない背景にあると思われる。

 民放テレビ局の各社は4月下旬になって、本当に短いストレートニュースで報道した。それもジャニーズ事務所が取引先に文書で説明した対応策を取り上げる形でやっていることが多く、実態はひどいと思う。

 こうした現状を変えるために、私たちには何ができるのか。テレビ局やスポンサー企業に対して、事実の解明を求める声を上げることがまずはできるだろう。勇気ある証言を無駄にしないために、告発者を応援することも大事だ。被害にあったタレントの精神的ケアも必要である。

 ※※TBSは5月11日、報道番組「news23」で被害者の証言を含めて詳しく報じた。


性教育の拡充が必要だ

 どうすれば、芸能界のみならず、一般社会から性被害を減らすことができるのだろうか。まずは法整備という手段がある。

 日本は、2017年まで強姦(ごうかん)罪(強制性交等罪に改称)の被害対象者が女性に限られていた。このことが、男性の性被害が世の中で問題視されにくいことにつながったのではないか。17年の刑法改正で、被害者の性別は問われなくなった。

 そして2023年、性的行為について自分で意思決定ができるとみなす「性交同意年齢」を、13歳から16歳に引き上げる刑法などの改正案が閣議決定された。これまでは、親などの監護者以外の人は、暴行や脅迫がなければ「強制性交等罪」として認められていなかったが、経済的・社会的関係の地位を利用して性交などをした場合も、処罰の対象になるとした。罪名も「不同意性交等罪」に変わる予定だ。これは今国会で法案の成立を目指している。

 ちなみに、法整備が進んでいるスウェーデンは、「性行為は自発的なものでなければならず、積極的な同意がなければレイプと見なす」という法規定を持っている。

 私は、「性的同意」についての法規定を見直すのと同時に、「性的同意とは何か」などを教える性教育を拡充させることが、必要ではないかと思う。

 もし被害にあってしまった場合、どうするのか知ることや、相談先を知っておくことも大事だ。気持ち悪いかもしれないが、シャワーなどを浴びずに、警察に行って証拠をとっておくことなどが具体的には考えられる。加害者にならないためにも、性的同意とは何かを伝え、被害にあった場合もどうすればいいかを伝えるべきだ。日本は欧米に比べ、性教育では後れを取っている。ぜひ、私たちが声を上げ、社会を変えよう。(たかまつなな 隔週月曜更新)


 ☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。


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