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  • 執筆者の写真笑下村塾

なぜスウェーデンの若者は投票に行くのか? 首相の答えは「学校選挙」!

※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年08月21日配信)


スウェーデンの若者の投票率は8割を超える。スウェーデンの首相に、なぜ高いのか質問したところ、それは「学校選挙」があるからではないかと言われた。すなわちスウェーデンの学校で行われる模擬投票のことである。今回は、昨年9月の現地取材で、実施されている学校を訪ねた際の様子をお伝えしたい。


「子どもたちの選挙体験」を政府が全力バックアップ!

 現地取材はスウェーデンの選挙期間中だった。マグダレナ・アンデション首相(当時)が演説すると聞き、会場を訪れた。終了後、首相を囲む記者の輪に加わり、手を挙げ続けたところ指名されたので、最も聞いてみたいことをぶつけてみた。日本の若者の投票率は3割だが、なぜスウェーデンは高率なのか?

 「学校で選挙の重要性を教えていることに加え、学校でも選挙があり、生徒たちは投票の練習をすることができます。一般的にもスウェーデンの選挙への参加率は非常に高く、もちろん親も子供たちと投票の重要性について話し合っています」

 学校での選挙とは何なのだろう?ストックホルムにある中学校(ビヨルクハーゲン校)で「学校選挙」と呼ばれる模擬投票が行われていると聞き取材に行った。

 クラス毎にやってくる生徒たち。講堂の段上には、選挙で実際に使われている用紙がある。一人ずつ記載台に向かい、投票している。この学校だけで行われているものではない。スウェーデンの若者市民社会庁と学生団体が主導して、全国の中学校と高校のおよそ半数が参加している。参加校には学校選挙キットを配布する。実施の方法、政党の訪問方法などに加え、民主主義をどのように教えるとよいのかというヒントもハンドブックに書いてある。学校選挙が近づくと、投票用紙、投票用封筒、投票箱、実施するために必要なすべての資料を入れた選挙パッケージが発送される。


 学校選挙を担当する先生に聞いたところ、投票に備え「国会に議席を持つ政党が各論点に対してどのように考えているか、各政党がどのような政策を行おうとしているのかを学びました」ということだ。

この学校ではなかったが、場合によって政治家を招いて公開討論会が行われたり、各政党がブースを出店し直接対話できるスペースを設けたりするケースもある。授業の後でさらに興味を持った生徒は、近くの駅前で、各政党が「選挙小屋」と呼ばれるブースを出している場所に行き、直接質問や意見交換などをしていた(下記の動画をぜひご覧ください)。




政治が身近になる空気感

 実際に学校選挙に参加した14歳のインカさんは、政治について話すのが身近になると言う。

 「若いうちから選挙の経験が疑似的にできて、政党の政策やそれに基づいて自分の投票先を考える経験ができていい。学校で民主主義や模擬選挙について話すようになると、友達や家族とそのような話をすることが自然になる。私は自分の政治的見解について話せますという空気感が自然とできてくるものだと思う」

 18歳になったら、選挙に行きたいというインカさん。なぜか。

 「自分は幼い頃から先生や親から、あなたはどう思うの?と意見を求められた。だから、自分の意見は重要だと思えるし、社会に自分の意見を表明するために選挙に行きたい」

 日本にも模擬選挙はあるが、実際の政党ではなく、架空の政党で行われていることも多い。現実の選挙にあわせて行う際も、事前に各政党の違いについて丁寧に扱うことは少ない。各候補者が自分の公約を短くまとめたものが一覧になっている選挙公報などを活用して行われることが多い。

 また、事後学習が決定的に違う。学校選挙を行っている学校は、投票結果を事務局に送り、そうすると他の学校の結果も見られるようになる。先生に聞くと、事後学習では「学校毎に結果が異なる場合はその理由を分析します。社会的要因によるものなのか、以前の実際の大規模選挙ではどのような結果だったのか、といったことを比較することができます」という。

 学校選挙の結果は、実際の選挙前に投票が締め切られるが、本物の選挙に影響が出ないように開票作業は、選挙終了後に行われる。そして、若者市民社会庁が学校選挙の開票ネット特番で、地域毎の選挙結果の違いを発表したり、各学校と中継で結び話を聞いたりしていた。YouTubeで配信されており、事後学習に使われることを意識した作りになっている。学校選挙には、およそ4人の常駐スタッフを中心に、予算は8000万円(600万クローナ)ほど組まれている。


「投票で社会が変わると思う」と語る14歳

 スウェーデンの若者市民社会庁のレーナ・ニーベリ事務局長に学校選挙の目的を聞いた。

 「一つ目は、民主主義がどのように機能するか学び、選挙に参加して自分の声を届ける重要な部分を経験すること。二つ目は、若者たちが通常の選挙に参加していたら、どのような結果になるのか社会に示し、若者の考えを知ってもらい反映するためです。また近年は、スウェーデンでも投票率が下がっており、民主主義と政治プロセスへの信頼を失うリスクがあります。投票の大切さを伝えることが重要だと考えています」

 欧州の他国同様、スウェーデンでも、移民や難民に対して差別的な発言を繰り返す過激な政党が影響力を高めている。これをきっかけに、学校長が政党や青年部(ユース党)の受け入れを拒否することが増えてきた。そのことをニーベリ事務局長は問題だという。

 「政党とその青年部が学校にくる可能性が減りました。若者が政治家に会わなくなるので、非常に心配なことです。来なくなると、若者が政党によって勧誘されないことになります。政党は、私たちの民主主義の基盤です。結局のところ、実際に党員でなければ、議決権を行使する議会に選出されることはできません」

 政治への関心を高めるだけではなく、政党への参加率の低下を問題視しており、政党の勧誘がないことが問題だと政府の担当者が言うことに驚いた。

 日本とは全く違う模擬選挙を体験できるスウェーデン。スウェーデンの中学校の子どもたち(14歳)から、低投票率が際立つ日本の若者へメッセージをもらった。

 「投票で社会が変わると思います。それが一番簡単な方法です。将来に関わることだから、選挙には行くべきだと思います。投票をしないということは、政治家はあなたが無関心だと判断するでしょう。あなたができることをしていないことになります。理想を実現するために常に最善を尽くすべきです」(ノーラさん)

 「私たちには若い時から社会に貢献できる素晴らしい機会があります。例えば、政党の青年部(ユース党)に参加して自分と意見が近い政党の手助けをすることもできます。私たちが大きくなったら投票することで、社会に影響を与え、自分の望む将来に貢献することができます。気候変動問題に関心があれば、同じような問題意識を持つ政党に投票することです。そうすれば自分がその問題に貢献したと感じられるし、自分が行った選択に満足できるはずです。社会のためにできる限りの貢献をすることは大切なことです」(インカさん)


スウェーデンの学校選挙の取材動画をぜひご覧ください。




 ☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。

 ※記事に出てくる名前・年齢・肩書は、取材当時2022年9月時点のものです。


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