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執筆者の写真笑下村塾

より多くの人に知ってほしい 初めて記者会見を開いた理由

※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2024年02月19日配信)


「社会は変えられる」。そう思う子どもたちを増やすのが、私たち笑下村塾の夢だ。若い人の政治参加を促す活動に取り組む中で、海外の子どもに比べ日本には「変えられる」と思う若者が少なく、行動にもつながっていないと考えるようになった。

 ひるがえって自分はどうか。子どもの頃に「変えられる」と思っていたのか。どこかに無力感を抱いていなかったか。今も本当に「変えられる」と信じ、日々活動できているのだろうか。

 この連載でも何度か書いた「高校生リバースメンター」プロジェクト。10代の少年・少女が、知事のメンター(相談役)として政策提言をする活動で重視したのは、社会を変える経験をすることだ。「社会を変える方法はたくさんある。変えてきた若者がこんなにいる。みんなも社会を変えている」。これまで彼らにそう伝えてきた。

 もっともっと自分にできることはないか。そう考えた私は先日、人生で初めての記者会見を開いた。その思いを最後につづりたい。

 私は社会問題解決型の番組を作りたいと思い、新卒で入ったNHKを2年余りで辞めた。その後はYouTubeを通して、NHKではできないことに挑戦し続けてきた。

 2023年3月、旧ジャニーズ事務所の所属タレントへの性加害を英BBCが報道し、芸能人への人権侵害がクローズアップされた。私自身も、芸人として大学生の頃にキャリアをスタートさせ、芸能界で起きる信じられない性加害やセクハラ、パワハラの数々に驚かされたので、人ごとではなかった。

 ところが、日本のメディアで当初まともに取り上げたのは週刊文春ぐらいだった。そこで、リスクを承知の上でYouTube「たかまつななチャンネル」でも、旧ジャニーズ問題の被害者の方々を取材した。NHKが報じて風向きが変わったように感じたが、旧ジャニーズだけの問題に矮小(わいしょう)化され、業界全体が変わるようには思えなかった。

 私のYouTubeで被害者、ジャーナリスト、弁護士が議論し、再発防止には法整備が必要との結論に至った。社会の問題を解決するには、当事者が声を上げるだけではなく、メディアが具体的な論点を示し、実現に向けて行動を起こす、アドボカシーをするということがあっていいのではないか。

 そこで23年11月に「芸能人を守る法律を作ろう」という署名活動を始めた。ジャーナリズムには客観性が必要だと言われる。ジャーナリストだと名乗ると、いろんな人に会いに行ける。そこで得た知見を、社会を良くし、改革することにもっと使いたい。

 署名はなかなか集まらず、今年の2月になっても1000人を少し超える程度だった。芸能界の人から、応援しているけれど今の立場では声を上げにくいとの意見が寄せられた。賛同人をそろえるのにも苦労した。

 私は決心した。より多くの人に知ってもらおうと。そして2月9日、厚生労働省で前述の被害者、ジャーナリスト、弁護士と4人そろって記者会見に臨んだ。私は芸人になってから、楽屋で胸を触られる先輩の女性芸人を何度も目撃して驚いたこと、高校生の時、自分も性被害に遭った経験などを告白。夢を人質に取られ、声を上げにくいといった構造的な背景が芸能界全体にあるのではないかと問題提起した。

 1時間余りの会見は、NHKやフジテレビ、日本テレビ、新聞、通信社など30社以上が取材し、報じられた。今後は署名活動に加え、インターネット上で被害の実態を調査していく。中央省庁や政治家に当事者の声を届け、業界の実態を理解してもらうことで、悲劇を繰り返さないための議論を活性化させたい。お力添えをどうかお願いします。

 少しずつしか社会は変えられない。署名を集めるのも、記者会見をするのも正直大変で、まだまだスタートラインに立ったばかりだ。法律を作るまでの道のりは、かなり長いだろう。でも、諦めたら何も変わらない。

 私は新しいジャーナリズム、社会問題解決型のYouTube番組を作り、社会を変えられることを証明していきたい。「変えられる」と信じて実践し、子どもたちや若者を勇気づけたい。ソーシャルイノベーターやアクティビストの、若者のロールモデルになれるよう精進したい。

 投票、署名活動、デモ、メディアへの情報提供、記者会見、政治家への陳情、選挙への立候補…社会を変えるためのいろんな方法がある。皆さんも、より良い社会を作るためにぜひ何か行動に移したり、行動する人を応援したりしてほしい。1年間ありがとうございました。


☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。


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