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  • 執筆者の写真笑下村塾

地方政治に参加しよう 「なり手不足」を防ぐには?

※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年5月1日配信)


 統一地方選挙が終わった。地方議員のなり手不足が目立つ選挙だった。町村議会選挙では1250人が無投票で当選し、総定数に占める割合は過去最高の30・3%だった。「なり手不足」の実態はどうなっているのか。私は選挙前の4月初旬、北海道テレビのYouTube選挙特番に出演することになり、同局のアナウンサーらとともに、北海道の新十津川町と栗山町に取材に行った。そこでは、地元議員たちが無投票を防ぐために挑戦する姿を目の当たりにした。一方で、地方議会の実情に驚かされることも多かった。

 ※※両町とも最終的には定数以上の立候補があり選挙戦が行われた。


選挙前提では口説きにくい

 北海道の新十津川町では、2011年度と2019年度の2回の町議選が無投票だった。今回も立候補者説明会の時点で参加者が少なく、無投票や定員割れが心配される状況となっていた。

 そんな中、今回の選挙ではすでに不出馬を決めていた議長の笹木正文議員(取材時の肩書)に話を聞いた。町では基本的に議員は兼業を前提としているところがあり、自由の利く自営業者などがほとんど。第一に議会を優先しなければならないことから、普通の会社員やパート勤務の人がなるのは難しいだろうと話した。また、農業関係者についても、近年は大規模農家が増え、時間に余裕がなく、なり手不足が加速しているのではないかという。

 そして、何より昔は選挙があることが当たり前だったが、今は選挙があるとなると逆に候補者が二の足を踏んでしまうという。「選挙になると落選する可能性もあり、リスクになってしまう。そのリスクを踏まえた上でも出てもらうのが難しい」

 新十津川町では候補者数が定員より2人少ないと再選挙になる。その場合、数百万円のお金がかかってしまう。それはもったいないと議員は「候補者はいないか」と奔走する。しかし、選挙があることを前提にすると候補者探しが難しいという。無投票が常態化してしまったことで、選挙があると落選のリスクがあるから口説きにくいとなるとは本末転倒だ、と思った。

 しかし、ふたを開けてみると、今回は無投票ではなく、8年ぶりの選挙になった。

 そこには笹木議員はじめ、さまざまな議員・議会の努力があった。新十津川町議会は、議員と町民が直接対話する「かたるべサロン」を開催。そこで、議員がどんな仕事か説明する回を設けるなど工夫した結果、その参加者から2人が立候補を決めた。また、議会が議員の報酬や仕事内容などを説明した資料を配布したところ、それを受け取った2人も立候補をした。

 今回の選挙では、30代の立候補者も3人おり、若い挑戦者も結果として現れた。選挙の結果、その3人は全員当選。若返りも進んだ。


「議員の学校」を開催

 栗山町は過去2回、無投票で選挙がなかった。このことに対して、問題意識をもった議員が中心となり、2月に連続講座「議員の学校」を開催。近隣の地域や東京などからも参加する人がおり、19人が受講した。議員の仕事がどういうものかを説明する企画だった。

 「選挙の際に、後援会はあった方がいいのか」というような具体的な話から、議会の運営委員会や本会議、予算委員会を傍聴し、そのあとにディスカッションしたり、参加者が議員になりきる模擬議会まで行われた。模擬議会では、実際の補正予算の時の資料をもとに行われ、答弁者は本物の議員が務めた。実際の本会議より質疑は長時間になったという。

 議員の学校の発案者で、栗山町で3期町議をつとめ、すでに引退を決めていた三田源幸議員に話を聞いた。

 候補者説明会には、定数11人のところ、14人が申し込んだ。その後、実際に14人が出馬した。その中には、「議員の学校」に参加していた人が3人おり、確実に効果がでていたことになる。

 しかし課題も残っている。出馬した人の年齢を見ると40歳から79歳。20代、30代はゼロだった。「学校」には20代も参加したが、今回は出馬しなかった。若い世代が議員になりたがらない理由は、議員の仕事が分からないことに加えて、報酬の少なさもあるのではないかと三田氏は考える。「報酬が少ないし、時間が取られる。他の仕事と両立がなかなかしづらいということもある」と指摘する。今、栗山町の議員報酬は月19万6千円しかない。


地域の代弁者は誰なのか

 報酬が20万円ほどでは「本業」としてはなりたたない。だから、農業や漁業など業界団体の代表者が議員になったり、余裕のある自営業者の人が議員になる。それでいいのだろうか。地域の多様な声が反映されるべきだろう。

 スウェーデンでは、地方議会はボランティアが前提とされている。日本では報酬を高くして、職業として成り立つようにするか、それとも、議会を夜間に開催したり、曜日を完全に固定化したりして、会社員やパートなどと兼業できるモデルとするのかなど、制度を抜本的に見直すべきときがきたのではないか。

 よりよい地方政治にしていくためには、私たち住民が、当事者意識をもって町を作っていると思えるよう、積極的に参画していくことが不可欠だろう。20代~30代といった若い世代の議員を増やしていくことも求められている。

 国に訴えてだめなことも、地方なら実現するかもしれない。まずは、政治参加は地方からやってみて、成功体験を得て、国政に進出する人が増えるというのがいいのではないかと思う。


 ☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。


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