前回は「新型コロナウィルスの影響」について話を伺いましたが、今回はK-PROの代表の児島気奈さんのパーソナルな部分を笑下村塾のたかまつなながお聞きしました。「お笑いライブの主宰」という聞きなじみのない仕事をしている児島さんですが、なぜ今の仕事に就こうと思ったのか、お笑いライブを今後どうしていきたいのでしょうか。(前編はこちら)
未だに赤字のライブもある厳しい現状
ーー今日は児島さんの人生に迫りたいと思うのですが、その前にお笑いライブって儲かるのかとても気になります。
児島:正直儲かりません。数はたくさん売ってるから、すごく盛り上がってる感じに思われるけど、そんなに大きな利益はないです。
ーーぶっちゃけ年商はどのぐらいなんですか?
児島:そういうのちゃんと計算している社員はいるけど、具体的な数字はわかりません。未だに「赤字のライブもある」って言ってたかな。赤字になるライブもやるようにしているので、そんなに儲かっていないですね。
「昔の芸人さんは今ほど優しくなかった」
ーー最初にお笑いにハマった理由はなんですか?
児島:子供の頃からお笑い番組が好きで、上岡龍太郎さんやシティボーイズさんをずっと見ていたんですけど、一番大きかったのは中学生の時に起きた「ボキャブラブーム」。爆笑問題さんとかネプチューンさんとか、その時に“若手のお笑い”というものを知って、どんどんハマっていきました。その後、友達に誘われて舞台の手伝い始めてから、ますます若手のお笑いの虜になってしまい、気が付いたらこうなっていました。
ーーなぜお手伝いに行かれたんですか?
児島:当時、文通相手を募集できる雑誌があって、そこに住所とかが書いてあるんですけど、そこでお笑い好きの文通相手を見つけて手紙でやり取りしていました。その時に知り合った女の子に、「中野でお笑いライブっていうのがあるらしいから、一緒にお手伝いに行かない?」って誘われたのがキッカケです。
当時は「爆笑問題さんとかネプチューンさんとか見れるかな」と思っていたんですけど、全然知らない芸人さんばかりだし、お客さんも全然入ってないし、ウケてないし、「この空間なんなんだろう」っていう印象しかなかったです。それで「芸能人に会えないんだな…」ってふてくされていたら、出演者の落語家さんに「なに楽屋でサボってんだよ!」って怒られて。そこで「なんでこんな知らない人に怒られなきゃいけないんだ」っていう悔しい気持ちになって、「いつか私がライブやって芸人さんから『出してください』って頭を下げられるようなになろう」と思いました。
ーーよくそこまで思えましたね。なんで辞めなかったんですか?
児島:昔の芸人さんは今ほど優しくなかったし、コンビ仲も良くなかったし、ピリピリしたムードが楽屋にある時代でした。あと、スタッフに厳しい芸人さんが多く、「所作が汚い」、「足音うるさい」といったことを言われました。
本当に「お前、使えねーな」の繰り返しだったけど、「気奈ちゃんがいてくれて今日は助かったよ」って初めて言ってもらえた時、めちゃくちゃ嬉しかったんですよね。褒められてこんなにドキドキしたことがなくて、本当にスキップして帰ったぐらい感動しました。
それから、「もっと芸人さんに認められたい」、「怒られたところを改善して、『児島さんがいなかったらダメだった』とか言われるぐらい必要とされたい」と思うようになりました。
劇場の最前列は絶対に埋める
ーーライブをやる時のこだわりはありますか?
児島:楽屋の雰囲気を良くするを意識しています。そのためにケータリングの食べ物をちょっと多めに置いたり、芸人さんと会話したりしますね。あと、会場内のスタッフの愛想が悪かったら笑いにくい雰囲気になるので、お客さんがストレスを感じないよう、会場内のスタッフには愛想良くスムーズに対応することを徹底しています。
ーーK-PROのライブでは最前列を絶対席空けないようしていますよね。
児島:私は過去に芸人さんの気持ちを理解するため、舞台に立ったことがあるのですが、その時、最前列にお客さんがいないとすごくやりにくい気持ちになったので、できるところは改善しようと考えて取り組んでいます。最近ではありがたいことに、芸人さんの気持ちを理解し、芸人さんをリスペクトしたお客さんが増えて、自主席に最前列に座ってくれるようになりました。
アルバイトを週6日して芸人にギャラを払う
ーーお笑いライブを16年間も続けてこられた児島さんですが、最初から食べていけたんですか?
児島:全然です。「ライブに出てもらう芸人さんには、ギャラを絶対支払いたい」という思いがありまして、おかげでライブをしても毎月5万~10万円ぐらいの赤字を出していました。ですので、その補填のために、週6日アルバイトをしながら続けてましたね。
ーー「お客さんを呼べない芸人がいけない」という考え方もあるので、必ずしもギャラを支払う必要はないように思いますが…。
児島:そういう考え方の人は確かに多いですね。ただ、「お笑いライブでお金を稼いでいるのに、芸人さんだけが損をしてしまう」という形は絶対に嫌だったので、そこは一緒に始めた仲間と、「絶対にお客さんからお金をいただいて、芸人さんにお金を払おう」と決めていました。
ーーよく折れなかったですね。
児島:怒られて、直して、褒められて、の繰り返しの中で、「自分自身のスキルが、芸人さんに認めてもらえてる」と感じられることが楽しかったからだと思います。
売れる芸人に共通するのは、“芸人視聴率”
ーーこれまでいろんな芸人さんを見てきた児島さんですけど、売れる芸人さんって分かるんですか?
児島:分かりますね。ただ、「分かる」というよりも、売れる芸人さんはネタをやっている時に舞台袖に他の芸人さんが見に来るんですよね
ーー芸人視聴率というやつですね。
児島:それが大きな指針になっていますね。昔だと、バイきんぐさん、アルコ&ピースさん、三四郎さんとかは本当にみんな集まってきていて、その人たちはあっという間に売れていきました。最近だと、かが屋さんのライブだとよく集まりますね。
ーーちなみに昔の三四郎さんはどんな感じだったんですか?
児島:最初会った時は、「俺らなんか人気無いから」みたいなことをずっと言うタイプでした。今の小宮くんってポンコツキャラみたいな立ち位置ですけど、本当にツッコミが鋭くて、言葉選び方のセンスすごくて、「人気が無いからって後ろのほうにいるんじゃなくて、MCをやってる先輩の頭を叩くぐらい前に出なよ」って言いました。そうしたら、本当に小宮君が突然前に出て、「小宮はうるさいから下がってろ」と言われながらもどんどん前出るっていうことがあって、その時はすごい嬉しかったですね。元々持っていたお笑いの才能もありますけど、前に出ることを意識したことで、一気に飛躍していく様を舞台から感じました。
ーーどんな気持ちになりましたか?
児島:やっぱり嬉しいです。特に三四郎さんは、毎日のようにライブをやっていた時から出演してもらっていたので、すごく嬉しかったです。
「お笑いライブ」という呼び方を変えたい
ーーK-PROはライブの主催だけでなく、所属芸人も抱えていますがその狙いは何なのですか?
児島:「こういうお仕事があるんですけど出られる人いますか?」と言われて、「すみません。うちは所属芸人がいないので、他の事務所さんに声かけてみますね」と返すことしかできない時期があったんです。それで、「所属の芸人さんが何人かいたら、今まで断っていた仕事も受けられるのかな」という考えがあって、「もし本当にどこにも行けなさそうだと思ったら連絡ください」という貼り紙を楽屋に貼ったら結構連絡が来て、「集まってくれた人のためにも、ちゃんとお仕事を取ったりしなきゃ」となって、ドンドン広がっていった感じですね。
ーー営業とかも行かれたりするんですか?
児島:行きますね。フリーで長く活動している人や、口が達者でMCが上手な人が多いから、イベントの制作会社さんに結構紹介していますね。あとは番組の制作会社さんにオススメしたりもありますね。
ーーK-PROとして今後どのようなステージを目指していきますか?
児島:今まで都内でお笑いライブをやっていたので、これからは「私たちが足を運ぶので見に来てください」という形にしていきたいです。あとは「お笑いライブ」という言い方を変えたいと思っています。ライブって「勉強の場」「試しの場」「自主的にやるもの」と考えられていて、「収益を目的としてはいけない」という雰囲気が強いんですよね。それに加えて、どこか「ライブはテレビの下」というイメージがあるので、「お笑いライブ」ではない言い方に変えることで価値が上がっていくのではないのかなと考えています。
「自分より芸人さんの活躍を応援したい」
ーー児島さんは現在38歳だと思いますが、昔に比べて変化などはありましたか?
児島:体力的にしんどい時はあるけど、まだまだ1年目ぐらいのつもりでいます。本当はリーダーとして良くないことだけど、私はパシリみたいなスタッフ歴が長かったせいか、今でもそういうことをやっていきたいと思っています。
ーー周囲には結婚して家庭を持っている人がいると思いますが、「このままでいいのか?」と思わないんですか?
児島:そこは全くなくて、「自分自身を幸せにする」という意識が欠けているんだと思います。だから、自分のことは二の次で「周りの人とか芸人さんが活躍してくれることを心から応援したい」という気持ちばかりです。
ーー生まれ変わってもK-PROをやります?
児島:やるかもしれません。お笑いが好きだし。ただ、昔ながらの芸人さんみたいに、鞄持ちとか付き人とかから始めて、裏方として師匠から芸を学ぶみたいなことを、もっと若いうちにたくさんしておきたかったという気持ちがあります。ですので、生まれ変わったら“師匠の弟子”のようなことを経験したいですね。
ーーなぜそこまで考えるのですか?
児島:「芸人さんの気持ちを理解したい」ということを突き詰めたいからですね。
ーー今でも十分理解していると思います。だから、ほとんどの芸人さんがキングオブコントの音響を児島さんにお願いしているわけですし。
児島:まだまだですね。本当に「もっと突き詰めたい」という気持ちは未だにあります。この仕事が楽しいからもっとやっていきたいです。
最後に(編集後記)
児島さんのお笑いへの想いには脱帽です。自分のことは二の次三の次にして、芸人さんのことをここまで考えていることにはもはや恐ろしさを覚えます。ですが、それ以上に常に芸人さんに対して深い愛情を持っていてくれるいることに、照れくさくなるとのと同時に、「下手な芸はできないな」と身が引き締まる思いになりました。
お笑いライブが軽視されている現状を打開し、「こんなに面白い世界があるんだ」と多くの人に思ってもらえるよう、演者側としてお笑いに真摯に向き合って行きます。 たかまつなな