東大卒芸人としても活躍する、元「田畑藤本」の藤本淳史さん。7月、自身が発達障害の一つであるADHD(注意欠陥・多動性障害)であることを公表しました。ADHDについては本人が気づかず、生きづらさを抱えたままのケースも少なくありません。なぜADHDと気づけたのか、今後どう症状と付き合っていくか、YouTube「たかまつななチャンネル」で聞きました。
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彼女がADHDと診断され「僕もそうかも」
――YouTubeチャンネル「街録ch」で、ご自身がADHDだということを公表されていましたね。驚きました。 公表するつもりだったわけでもないんですけど、取材の流れでお話しました。 ――実は私も、過去にADHD傾向があると病院で言われたことがあります。でも、どこまでが自分の性格で、どこからがADHDの特性なのかって、なかなか分かりにくいですよね。 そうですね。僕はお医者さんではないので、あくまでも自分の体験や、ADHDと診断されてからわかったことをお伝えしたいと思います。 ――そもそもADHDとは何なのか、藤本さんはどのように捉えていますか? ADHDは日本語で言うと、「注意欠陥・多動性障害」と呼ばれますよね。主な特徴の1つが、注意欠陥。活動に集中できない、気が散りやすいなどの「不注意」の傾向もあるんですけど、逆に「過集中」で、一つのことに集中すると他のことが目に入らなくなるといった症状もあると知りました。 他にも、じっとしていられない、待つことが苦手でしゃべりすぎてしまうといった多動性・衝動性も特徴としてあります。これらの症状がどのようなバランスで現れるかは人それぞれ、という認識です。 ――藤本さんは、いつ、どんなきっかけで自分がADHDだと知ったんですか? 昨年、病院で診断を受けました。今、彼女と一緒に住んでいるんですけど、彼女が転職を繰り返す中でメンタルのバランスを崩して、仕事ができなくなってしまったんです。うつ病だと診断されたんですが、彼女が「自分なんてダメだ」と思ってしまう原因として、ADHDがあるんじゃないかと言われました。 僕も彼女に付き添って病院に行き、診断を受けるのを聞いていたんですが、ADHDのチェック項目を見て「自分にもめっちゃ当てはまるやん」と気づいて。「先生、すみません。僕もADHDかもしれないんですけど、ちょっと見てもらっていいですか」と聞きました。 ――どういう項目に当てはまったんですか? 「遅刻や忘れ物が多い」「物事を順序立てて取り組むのが苦手」「優先順位がなかなかつけられない」とか。僕、そうなんですよ。夏休みの宿題なんて最たるもので、絶対、夏休みの最終日か2学期の初日にやっていましたから。 ――藤本さん、そういうイメージがないですよね。東大卒ということはコツコツ勉強しているんだろうな、って。 「部屋がきれい」とかね。よく言われるんですけど、めちゃくちゃ散らかっているんです。
原因は「ずぼら」じゃない。ADHDと聞いて安堵
――ADHDと診断を受けたときは、どんな心境でしたか。 ホッとしました。これまで、周りからずぼらだと言われて怒られたり、やる気はあるのにうまくできなかったりして「自分はなんてダメ人間なんだ」と思うこともあったので。「あれってADHDの症状やったんかな」と、改めて振り返りました。 ある分野についてはうまくできるのに、別の分野では全然できないことがある。だから「サボっているだけじゃないか」「努力が足りない」と自分を追い込んでしまっていた。それがADHDの症状だと知って、ちょっと許されるような、「“症状”なら、努力がどうこうじゃなくて、対策を取らなきゃいけないよな」と、自分に優しくなれた感覚はありましたね。 ――これまで周りから、どんなところで「ずぼら」と言われていたんですか。 ものを持ってこないとか、忘れるとか。今日、クイズ番組の収録があったんですけど、MENSAカードを毎回持っていかなきゃいけないのに、どこにあるか分からない。そんなのはしょっちゅうです。 遅刻も多くて、よく怒られます。だいたい1時間前には目覚ましを設定して、起きてはいるんですが、「家を出るまでにやらなあかんこと、なんやっけ」がわからなくなってしまうんですよ。「歯を磨かな」とか「顔を洗わな」とかが思いつかずにボーッとしていて、家を出る時間が遅れてしまう。 だから「優先順位がなかなかつけられない」といった項目を見たときに、わかる、と思いました。どちらから先に取り組んでもいいものについて、順番を決めて取り組むのが難しいんですよね。 ――逆に、一度何かに取り組んだら、過剰に集中してしまうところもありませんか。私はひとつの仕事に集中し出したら、他の仕事があるとすごいイライラしちゃったりします。 「マルチタスクが苦手」もあるんですよ、ADHDの特徴で。なのでひとつのことに取り組んで、ちゃんと終わらせてから次のことへ、ってやらなければいけないんですよね。 ――ADHDであることをプラスに捉えられたところはありますか? 街録chで話して、自分のYouTubeチャンネルでも動画を上げたときに、コメントで「自分もそうなんです」とか「自分の家族もそうなんです」「すごく分かります」とか、共感してくれる人がたくさんいたんです。これまで自分がダメだと思っていたところは、困っている人たちに寄り添えるような「特性」だったのかなと思って。何か役に立てることがあるなら、とプラスに捉えています。 ――これまでは、人ができることができなくてつらかったんですか? というよりも、「東大を出ているんだから、やればできるはずなのに、やらないなんて怠けだ」って思われてしまうところはつらかったですね。できないこと自体は事実だからいいんです。でも「じゃあサボっているよね」という言われ方をすると、本人としてはサボっている自覚はないんですよね。
昨年コンビ解散。謝るしかできないしんどさ
――昨年末、お笑いコンビ「田畑藤本」を解散されています。これまでのコンビ活動の中で、ADHDの症状が原因でケンカになることはありませんでしたか?
これまで僕はADHDという自覚はなかったから、遅刻が続いて相手に迷惑をかけてしまうときには、もう謝るしかできませんでした。ケンカにもならないですね。僕が悪いから。いま振り返ってみたら、それは、ちょっとしんどかったのかもしれないです。
ただコンビの難しいところは、もっと早くに僕がADHDだとわかっていて、相手の理解があったらそれで解決したかというと、そうとも限らない。遅刻はしていて、迷惑はかけるわけですから。二人でひとつのお笑いに向かうときに、ADHDの症状が邪魔してしまうのであれば、一緒にはできなかったのかなあと思います。
――今は、カップル共にADHDということですよね。困ることはありますか?
困っているのかどうかは分からないですけど、部屋とかはめちゃめちゃ汚いです。汚れているのを気付いた人が掃除をするルールになっているんですけど、お互い「気付いていない」って言い張るんですよ。皿洗いが溜まっているとか相手に言われたときに、「いや僕は気付いていない」みたいな意地の張り合いで、どんどん皿が溜まっていく。
だから、ADHDと知って気持ちは楽にはなりましたけど、危険な感じもします。ADHDであることを言い訳にしたくなってしまうのが怖い。「しゃあない」って思い過ぎたら改善はできないので、症状に対してどう対策するかを考えないといけないよな、と思いますね。
スマホに「今は何をする時間」を教えてもらう
――最近は、ADHDと公表している人たちが、どのように日常生活を工夫しているかを発信するようになりましたよね。
「こういう傾向がある人は、コレが役立つよ」って、いろんな人が発信してくれているから、便利ですよね。何が原因か見えたら、どうしたらいいかを考えやすくなりました。
――藤本さんはどういうことを工夫して、楽になりましたか?
スケジュールをすべてスマホのカレンダーに入れて、アラームで次に何をするかを分かるようにしています。仕事の内容だけではなくて移動や乗り換えも、すべて一括して。いちいち通知がくるから安心できる。
あとはルーチンタイマーみたいなアプリを使っています。「朝、何から手をつけていいのか分からなくなる」という話をしましたが、1時間でやることを決めておいて、「今は何をする時間」を音声で教えてもらう。
――それを使えば忘れることがないんですか?
やることを意識しておくと、わりと大丈夫なんですよ。もしかしたら勉強ができたのもそうだったのかもしれない。「これは覚えるんだ」と意識しているから、覚えられる確率は上がるんですよね。でも、気を抜いているときの日常のエピソードは、ごっそり忘れていたりして。
この「忘れっぽさ」は、他の症状にも関連していると思うんです。例えば、相手が意見を言っているときに、遮って自分の意見を言っちゃうという症状があるらしいんですけど。
――私もあります。
「相手のことを考えられないのか」と批判されるでしょう。「自分のことばっかり」みたいな。
でもね、原因を一概には言えないですけど、これも「忘れっぽさ」が関わっているらしいんです。相手の意見に対して、言いたいことを思いつく。その思いついた意見を、この後1分か2分経ったら忘れるなって分かっている。だから「今、言うしかない」と、相手の話を遮ってまで言ってしまうらしくて。
こんなふうに症状の裏にある仕組みを勉強していくのは面白いですね。自分自身を実験台のようにして考えています。
それ、みんなの「あるある」かも
――ADHDだけではなく発達障害が原因で生きづらさを抱えている人も多いと思いますが、藤本さんは生きづらさを感じますか? そうですね、脳の特定の物質が出る量が多いとか少ないとか、目に見えないところに原因があって起きる症状だというところが大変ですね。つい、自分のずぼらさやダメさといった性格に原因を求めてしまいがちなので。いつか、何かの分泌量が多いとか少ないとか、目に見える形でADHDの度合いが分かるといいなと思います。 ――これからADHDとどう付き合っていきたいですか? スパンと治るものじゃないですよね。ADHDはまだ解明されていない部分があるだけに、不安を抱えている人がたくさんいると思います。まだまだADHD自体が知られていなくて、「ADHDです」と公表すると重く受け止められがちなので、当たり前のように認知されるといいのかな。どんなふうに発信していくかは、まだ自分の中で葛藤があるんですが、ひとつの事例として「こんな人もいるよ」と自分の生き方を伝えられたらと思っています。 ――ありがとうございます。最後に、ADHDで今悩んでいる方にメッセージをいただけますか。 ADHDの人が抱えがちな症状を、大きな問題だと捉えて、深く悩んでしまっている人もいるかもしれません。でも、表に出していないだけで、同じことに悩んでいる人はたくさんいると思うんです。だから僕は、悩んでいることはできるだけオープンに出していきます。思い当たることがあったら「それ、あるある」なんて思ってもらえたら嬉しいです。 僕のYouTubeでも、他の人の発信でも、何かしら自分の生活に活かせるものを見つけてほしいです。絶対、大丈夫なので。思い詰めずに楽しんで生きていきましょう。 (取材:たかまつなな、編集協力:塚田智恵美)
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