「とある男が授業をしてみた」で授業動画をアップするチャンネル登録者数145万人の教育系YouTuberの第一人者・葉一さん。9年前から授業動画を公開し始め、現在たくさんの子どもたちから支持されています。そんな葉一さんは授業動画を「絶対にカットしない」と決めています。企業も参入する教育動画でトップを走り続ける理由は何か。YouTube「たかまつななチャンネル」で聞きました。
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諦めずに努力し続ける姿を教材に
――葉一さんのYouTube動画のターゲットはどんな方なんですか?
葉一:ターゲット層でいうと、小学校3年生から高校生までですね。教科書レベルの授業動画を作っているので、学力的にいうと平均からそれよりちょっと下の子たち。そういう子たちのボトムアップができたらと思ってターゲット層に掲げたものの、いざ動画を作りはじめてみたら学力や偏差値なんて関係ないんですよね。幅広い層の子たちが見てくれているので。
――ボトムアップは達成したんでしょうか?
葉一:できていると思います。というのも、僕の動画を見ている子たちってテストが終わると、報告をしてくれるんですよ。テスト前は3点だったのに、動画をみたら80点取れましたって。
――それは嬉しいですね。
葉一:「本当…!?」って少し驚きますけど、僕の動画は教科書に載っている基礎レベルはちゃんと抑えているので、うまく使ってくれれば絶対にテストの点数は上がると思います。
――私自身、1人で黙々と机に向かえなかったりするんですけど、葉一さんの動画がわかりやすくても、それを見るまでの状態に持っていくのが大変かなって思うんですけど……。
葉一:親御さんからもそういう相談、めちゃくちゃいただきます。ズバリ答えを言ってしまうと、その解決策って基本的にはないんですよ。
――えっ、ないんですか?
葉一:う〜ん、正しくは、まだそのフェーズではないって感じですね。なぜなら、僕の動画を見てくれる子って、僕の動画をクリックしている時点で、主体的に勉強をしようと思っているから、成績の伸び率はすごく高いと思うんですよ。だから別に動画を見たいとすら思ってない子に、動画を見てもらうことって非常に難しいんですよね。
――確かに難しいですね。動画を見てもらうために気をつけていることはありますか?
葉一:ずっと大切にしてきたのは、まず子どもたちに認知してもらうこと。塾講師をやっている時に気づいたんですけど、子どもたちって先生や親がおすすめしたものには興味を全くと言っていいほど示さない。それなのに友達が同じものをすすめると、すぐに心に響くんですよ。つまり、同世代の子たちからの口コミが一番強いわけなんですよね。そんなこともあって、まずは自分のYouTubeチャンネルを知ってもらうことが大事だなって思ったんです。
――チャンネル創設から9年、口コミでどんどん広がっていって、今や150万人以上の登録者数がいるの、本当にすごいですよね。コツコツと地道にやってこられた結果じゃないですか。
葉一:いえいえいえ! でもありがとうございます(笑)。ただ僕の動画って、一度もバズったことないんですよ。今3600本くらいYouTubeにアップしているんですけど、ただの1本もない(笑)。
――それが勉強と似ていますよね。コツコツと地道に努力すれば、結果は必ず伴うっていう。
葉一:授業動画が教材の1つですが、一番は自分の姿こそが教材だと思ってます。コツコツ続けていたら夢は叶うんだよって。そんな姿は自分の身をもって示していきたいんです。
教育系YouTuberのパイオニアになれた秘密
――私自身、YouTube動画を作ってきて、何度も何度も挫折してるんですが、どうして葉一さんは9年も続けてこられたんですか?
葉一:僕も心は何度も折れてますよ。塾講師時代から『情熱大陸』(※TBS系のドキュメンタリー番組)に出るって断言してきたんですけど、いつも鼻で笑われてました。YouTubeチャンネルの登録者数が数千人の時だって、周りのみんな「応援してます」なんて言いながらも鼻で笑ってましたからね。でも絶対に出られる自信があったし、実際に出演させてもらえた。夢が叶うのに9年かかりましたが、継続したら形になるってことを自身の姿をもって子どもたちに見せていきたい。もちろん、志半ばで断念したらカッコ悪いっていうのもありますけどね(笑)。
――努力を続けられるのがすごいですよ。私、結果がすぐに出ないと、やめちゃうので……。
葉一:すぐに結果出て欲しいですよね。僕もそう思っていましたし、なんなら自分自身、めちゃくちゃ飽き性なんですよ。英会話もドラムもすぐにやめたし、途中で諦めたことの方が人生の中で圧倒的に多い。じゃなんで9年も続けられるのかっていうと、たまたま自分が好きで夢中になれることに出会えたから。だから、どちらかというと、気づいたら9年も経っていたって感じですね。
――YouTubeには他とは違う魅力があったんですか? 葉一:YouTubeを始めた第一の理由に、塾講師時代、所得格差による教育格差問題に直面して、子どもたちからお金をもらわずに教育を届けたかったという思いがあって。とはいえ、自分自身も生きていかなきゃいけないのでお金は必要でした。この両立が成り立つのが、YouTubeだったんです。僕が欲しいものがここにある。そういうワクワクが今でもずっと続いているんですよね。あともう1つは、YouTubeって上を見たらキリがないじゃないですか。スーパーサイヤ人だらけで。今では教育系YouTuberの先駆けなんて言ってもらえますけど、当時は教育系の動画が少なかったこともあって、いつも比べる相手はエンタメ分野のトッププレイヤーでした。僕としてはそれがよかったんですよね。 ――HIKAKINさんとかですかね。私ならつらい気持ちになりそうです(笑)。 葉一:僕はその発想とはちょっと違っていて。エンタメ系YouTuberって人気の伸び率が半端なくて、気づいたら登録者数を抜かされているなんてことしょっちゅう。そういう人を間近で見て悔しくもあったけど、「もっと頑張らなきゃ」って起爆剤にもなったんです。教育系YouTuberの先輩となる人がいない分、手を抜こうと思えば抜けるけど、そういう人がいたから頑張ってこられたと思ってます。 ――今では教育系のYouTube動画に、企業まで参入してきていますよね。その辺は、どう棲み分けされているんでしょうか? 葉一:僕の動画、今3600本くらいあるんですけど、個人の方がやってもなかなか追いつけないじゃないですか。でも企業だったら、この本数の動画なんて一瞬で作れるんですよね。そういう現状の中で今、子どもたちが求めているのは、“わかりやすい授業”だけじゃないんです。一番大事なのは、“誰に教えてもらうか”なんだと思うんですよ。1人の先生がこの量を今から撮影するのは相当難しいと思うので。そういう背景があるから、僕がYouTubeで生き残れているのかもしれません。 ――YouTubeで一線を走り続ける秘訣ってあるんですか? 葉一:いいコンテンツを作ればいいという当初の考えから、今は葉一という人間性をもっと出していきたいと思ってます。授業の動画以外にも、子どもたちの相談に答える動画も配信しているんですけど、その中で葉一がどんな考えで子どもたちの悩みに向き合うのかという、僕自身の本質をさらけ出すようにしてます。そういう動画もバランスよくアップして、僕という人間を子どもたちに受け入れてもらえたらと考えてます。 ――動画によって分けているんですね。 葉一:そうですね。授業動画は雑談を一切なしにして、別の動画で人柄を出せるようにしてますね。人柄でいうと、背伸びもしないし、嘘もつかない。素のまんまの葉一を受け取ってもらえたら。
あえて編集せずに臨場感のある授業に
――動画の編集をされないそうですね。それもこだわりの1つですか? 葉一:今、動画の需要が増えまくっているから、子どもたちも親御さんたちも目が肥えていて、編集された動画にめちゃくちゃ慣れている状態なんですよね。だから、もしかしたら編集バリバリの動画の方がウケるかもしれない。だけど、僕が動画を始めたころに目指していたのは、子どもたちの心を動かすこと。とくに勉強したくないって子たちの心を動かしたいと思っていたんですよね。そんな思いがあるので、機械的に編集された言葉が届くとは考えにくかった。授業で噛んじゃったり、ホワイトボードに足をぶつけて痛がったりするのも実にリアルで臨場感もある。実際の学校の授業は編集されてないし、そこに近づけるために授業動画は絶対にカットしないと決めてます。万が一、大きなミスをしたら、一から撮り直しています。 ――編集すれば楽なのにあえてやらない。すごい労力ですよね。1日にどのくらいの時間を撮影に費やしているんですか? 葉一:1日に撮れて2本が限界ですね。授業動画撮った後、「マラソンしてきたの?」ってくらい息切れしてるんですよ。 ――全身全霊を込めて動画を作られているんですね。準備はどのくらいかかるんですか? 葉一:複数の教材を用意して、いろんな問題を自分で解いてみて、どんな板書を作れば子どもたちの思考をストップさせずに授業を進められるか。そんなことを考えて板書を1個完成させるのに、だいたい3時間くらいかかりますね。と言っても、そんなに難しいことはしてないですからね。教育関係者の方が見たら「自分でもできる」と思うと思います。
――板書のフォントもこだわっているとお聞きしました。
葉一:講師時代に研究して見つかったのが、あのなんともいえない丸っこいフォントなんですよ。丸文字過ぎても幼く見えるし、達筆すぎても生徒たちの心に響かない。保護者の方からも安心感を持ってもらえるフォントって考えたのが、今のフォントの形なんですよ。
――こだわりが強いですね。
葉一:はい、板書は誰よりもこだわってます。定規で測って2ミリでもズレてたら書き直しますからね。動画では、その数ミリの差なんてわからないですが、自分自身が手を抜きたくないんですよ。「まぁいっか」って諦められないというか。納得いくまでやりますね。
――動画内での話し方とかはどうですか?
葉一:今、動画の速度を変えられますけど、話し方で意識しているのはスピードと口調ですかね。小学校低学年向けの動画の場合、ゆっくり目に話したり、受け入れやすいようにタメ口を織り交ぜたり、言葉をわかりやすく噛み砕いたり。動画の対象となる学年ごとに少しだけ変えてはいますね。
――今コロナ禍なので、学校の先生が動画を撮るということも多いかと思います。その場合、気をつけるポイントはありますか?
葉一:先ほども言いましたが、今の子たちって動画に対する目が肥えちゃってるんで、画質とマイクを良くするために、機材はちゃんと揃えた方がいいかなと思います。先生方から動画に関するご相談、けっこういただくんですが、たまに三脚なしの手持ちで撮影している方がいらっしゃるんですよ。そうすると、やっぱり手ブレしちゃうんですよね。子どもたちが酔っちゃうんで、そこは気をつけていただければと。
――動画の長さはいかがですか?
葉一:通常の授業が45分だからって、動画はそれに合わせなくていいと思います。僕の場合、15分以内って決めていますが、先生たちが作るなら5〜6分の動画でいいかと。とにかく動画では、「今回はこれを勉強するんだ」という項目を明確にわかるようにするのが大切ですね。
――先生方からもご相談がたくさん寄せられているほど頼られている葉一さんですが、今後やりたいことってあるんですか?
葉一:いろいろあるんですが、学校の先生と一緒に何かしたいんですよね。先生って、子どもの心を動かせる大切な存在なんです。先生が発した一言で人生観が変わったりもあるし。だから先生という存在の価値の大きさを、僕の動画チャンネルなのかなんなのかはわからないですが、何かしらの形で伝えていけたらと思ってます。あとは教育格差もなくしていきたいです。勉強したいという意思があれば、勉強できるし、人生には無限に選択肢が広がっていることを発信していきけたら。
――教育格差も経済格差もなくなるといいですよね。今日は貴重なお話をありがとうございました!
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